思わず後ろに一歩下がると、背中に冷たい壁が触れた。 
   
  【霧人】 
  「君はいつも、命令をすれば何でも聞くよね。じゃあ、『僕に接吻しろ』って言ったら、してくれるの?」 
   
  【綾乃】 
  「え……!?」 
   
思いがけない質問に、どう答えたらいいのか迷っていると、更に顔が近づけられる。 
   
  【霧人】 
  「命令だよ。……君からしてくれ」 
   
  【綾乃】 
  「あ、あの……ご冗談はよしてください……」 
   
視線を逸らそうとする。でも、霧人様の視線に縫い留められて、私の視線は霧人様の瞳から外せない。 
   
  【霧人】 
  「前から気になっていたんだ。命令なら、本当に何でも聞くのかなぁって」 
   
  【綾乃】 
  「それはもちろん、私に出来ることであれば、ご命令には従います」 
   
  【霧人】 
  「だから、命令してるの。君から僕に接吻してくれ」 
   
  【綾乃】 
  「……」 
   
  【霧人】 
  「……出来ないの? 僕が相手だから?」 
   
  【綾乃】 
  「いいえ、そういう訳ではなくて……!」 
   
  【霧人】 
  「じゃあどうして? ……接吻以外のことなら、してくれる?」 
   
  【綾乃】 
  「ですから、私に出来る範囲のことでしたら……」 
   
  【霧人】 
  「……そんなに固くなるなよ。僕が悪いことをしてるみたいじゃないか」 
   
  【綾乃】 
  「……接吻は……良いこと、でもないです……」 
   
  【霧人】 
  「イイコト、じゃないの? 接吻って」 
   
霧人様は少し首を傾け、私の答えを待つように、じっと見つめ続けている。 
   
  【綾乃】 
  「あ、あのっ、もうそろそろ離してください……! せ、接吻なんて、恥ずかしくてっ」 
   
  【霧人】 
  「どうしようか。もっと、恥ずかしがらせてあげようか」 
   
  【綾乃】 
  「……っ」 
   
霧人様の唇が更に近づけられ、私は思わず目を閉じた。 
                         
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